認知症の配偶者との離婚
配偶者が認知症を発症したとき、離婚できるのか、その際に気を付けるべきことは何かについて解説します。
- 離婚原因があるか、別居期間を準備する必要があるか検討する
- 離婚という手続ができるほどの能力があるかを検討し
- ないのであれば後見等を申し立てる必要がある
ということを考えないといけません。
1 離婚原因があるか
まず離婚原因があるか、つまり、訴訟となった際に認知症というだけで離婚判決が出るかについて書きます。
結論から申し上げますと、認知症というだけで離婚できるということにはなりません。民法770条2項「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(なおこの条文は2024年改正にて削除されることとなりました。)にあたるかということを判断した最高裁判例は、諸般の事情を考慮し、病者の療養、生活等についてできる限りの具体的方途を講じて、ある程度の看護の見込みがあれば離婚できうる、と判断しています。そのため、離婚を求めるにはある程度配偶者の今後の生活等に配慮をしてから離婚を申し出る必要があります。ただし、他に離婚を継続しがたい事情(例えば別居期間が充分過ぎている等)の事情がある必要はあります。
理解としては認知症でない方と離婚する際に必要な事情+特別な配慮が必要だということです。
2 訴訟や離婚をするだけの能力があるか
認知症が軽度の時
まず離婚をするためには自分が何をしているか分かっている必要があります。認知症であったとしても、軽度であり、離婚の意味が分かっていれば(ケースバイケースでしょうが補助、保佐相当程度まで)離婚自体は可能です。もう一緒にいない、ということは理解できると考えられるからです。ただし、実際には困難になろうと思います。親族や代理人弁護士がある程度配偶者の意思を反映させて離婚の協議に臨んでくれればよいですが、そうでない場合は調停や離婚訴訟をする必要があるでしょう。調停においては配偶者が離婚に応じないと調停は成立しませんが、離婚訴訟であれば上記のような事情が立証できれば離婚すること自体は可能でしょう。
認知症が重度の時
認知症が進んで後見相当である場合(イメージとしては会話もおぼつかない、親族に会っても誰か分からない、という状態。定義としては「事理弁識能力(自らが行った行為の結果を理解する力)を欠く常況」)、離婚の意味さえ理解できませんので、配偶者に無理やり離婚届を書かせることや調停や訴訟で離婚することは不可能です。
しかしながら、後見を申し立てれば後見人が就任してくれますので、少なくとも離婚の訴訟までは追行してくれるでしょう。ただ、この場合、後見申立てを行う必要があり、その分の費用や労力はかかります。
3 認知症の程度をどうやって判断するか
かかりつけのお医者さんに長谷川式簡易知能評価スケール等で診断してもらうことです。後見か保佐か補助か、というのは法的な判断なので、医療的な判断と直結はしませんが、長谷川式であると10点程度となった場合、後見相当と言われています。また、MMSE(Mini Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)もよく使われるかと存じます。MMSEの方が記述等も含まれ、長谷川式が口述のみである点で異なります。MMSEでは、14点以下が後見相当だとされています。しかし医療的判断にすぎませんし、法的な部分でいうと裁判所に判断いただくのでその他、どのような事情があるかを具体的に申立書に記載する等が必要となります。
さて、診断書の入手方法ですが、ときどき協力的ではないとか、配偶者の親族に配慮、ないし配偶者の親族が配偶者の行方を隠してしまう(この場合行方を捜すところから始めますが)等といった場合、診断書の入手が不可能である場合があります。その場合でも後見申立てができないわけではなく、裁判所主導で鑑定をしてもらって診断書を入手することになります。
4 判断がつかないとき、あるいは後見の可能性がありうるとき
上記のような知識があったとしても、配偶者が後見相当か否かを判断するのは至難の業です。弁護士であっても医師であっても即断はできませんし、裁判所にも不可能です。そのため、認知能力が微妙である場合、後見等を申し立てずに離婚訴訟を提起したとして、訴訟を追行するだけの能力が無いと判断されると二度手間になりますので、保佐や補助も含めてまずは後見等を申し立てておくというのが安全かもしれませんね。そのご判断は離婚を求める方のご判断でしょうが、認知症の配偶者との離婚については離婚に精通した弁護士に相談の上進めた方がいいでしょう。ほとんど全ての場合弁護士に依頼して代理人として活動してもらう必要もあると思います。
まずはご相談をされて下さい。